汝は勤めを果たしているか、アンフォルタス

さて、前回、エディプスコンプレックス、それも男子のそれは、男であるということは、代理人としてでしかない、といいました。元ネタはラカンセミネール第5巻から。


「結局のところ、男は代理人という無限のシリーズを通じてでしか男性的ではあり得ないのです。この代理人というのは男の全ての先祖の男から来るもので、直接の先祖の男を経由してやってきます。」(351)

で、それをロボットアニメみたい、といったわけですが、今回はその小ネタ。まさに小ネタ。結構気に入っていたのです。論文にしたいくらい。でも、こんな内容で提出できる学会を思いつかなかったうえに、周囲のウケもイマイチだったので、とりあえずネタとして整理しがてら今回の漫談を。ただし、当方残念なことにアニメにも余り詳しくないので、当時見ていた内容をうろ覚えで書いております。誤りのご指摘お待ちしております。

日本が誇る自律型ロボット、鉄腕アトムはとりあえずおきましょう。今回は操縦型限定。そうすると、嚆矢は横山光輝鉄人28号ということになります。敷島博士が作ったロボットを、金田正太郎少年が、リモコンを通じて操縦する。まあなんでそんなガキが操っているのかは別として、モデルとしてはいたって健全です。まあ少年が少年兵だと思えば、戦争ってのはそんなものでしょう。昭和30年初期の連載開始らしいですね。

この構図がちょっと変わるのはマジンガーZ。1970年代初期の作品ですが、ここで話はとてもティピカルになってきます。パパの作ったロボットを、息子が乗る。しかもなぜかロボットの頭部にあるコクピットに。そして、後見人は父親の親友であった博士。ここで、モデルは一つの典型例となっています。父親は不在であり、彼は父親の代理人としての博士の後見の元、父親の身体としてのロボット、マジンガーZを操縦しようと必死なのです。これこそ、エディプスコンプレックスの典型的なモデルと言えましょう。これと同様の構造はガッチャマン他、多くの同年代のアニメに共通します。独裁者率いる悪の帝国が一方的に攻めてきて、なぜか攻められているのが日本だけ。対抗するのは科学の力。ここに見られるアメリカの不在は印象的です。このモデルはですから、やはり冷戦構造のモデルとは違うのでしょう。第二次世界大戦のリベンジ、というほうが正解のように思われさえしますが、ここにはもう少し分析が必要そうです。

で、引きつづき70年代後半。時代はガンダム。ここでも同じように、息子は父親の作ったロボットに乗ります。しかし、可哀想なことに今回は後見人はいないのです。乗組員一同子供ですし。で、お父さんの方ですが、戦争被害に巻き込まれ、生き残ったには生き残ったのですが、ちょいと脳味噌酸欠で知的に障害をきたしています。しかもその引き金を引いたのは息子。息子も父親も知らないようではありますが、ここには父殺しにもなりきれない父殺し、そして自我理想にもならないちょっとだけ年上の艦長、と、エディプスモデルが微妙に崩壊をきたしはじめた時代が反映しています。全共闘世代のコンプレックスそのもの、といっても、多分間違いではないでしょう。戦いの善悪がまったくはっきりしない、目的も大義名分も微妙、というところが、このアニメのミソ。

引きつづき、ちょっと年代がとんで90年代、今度はエヴァンゲリオン。ある意味ガンダムモデルの延長ですが、親父は生きていて、なにやら意味不明な悪事陰謀をたくらみ、父親としての権威もへったくれもない応対に終始しています。しかもその悪事たるや死んだ妻に未練たらたら、という世にも情けない動機で行われております。息子も息子で、彼が乗る父親の作ったロボットは、実は母親の身体。某教授が母親と一体になるということのためだけに無駄な努力を続けたアニメ、といったのも無理からぬところです。

ここで面白いのは、敵のありかた。ガンダムまでは一応、戦争には双方にそれなりに名分がある、というところが話を曖昧にしていたのですが、今回はまるで意味もなく敵が攻めてきます。攻めてくる意味もわからなければ登場の仕方も意味不明。ついでにいえば姿形も意味不明、ということで、これはガンダムのヒステリーモデルが境界例モデルに移行したとしかいいようがありません。

さて、最後の一文にあるように、このロボットアニメとエディプスコンプレックスの構造の変遷は、そのまま症状の変遷に反映しています。こうしてみると面白いのは最近リメイクされたキャシャーンで、あれ、父親は悪の帝国の手先に洗脳され、母親はその敵のボスの愛人ないしペットみたいな位置づけになっているのですね。こうなるともう、救いのないこときわまりない。70年代のアニメだったはずですが、ある意味、その設定は時代を大幅に先駆けていたのかもしれません。パラノイアきわまりない。

こんな感じに、少年たちの見る夢は、時代の症状と密接に関係がありそうです。でも、今回はネタ止まり。厳密な構造的比較は欠けています。いずれやってみたいとは思うのですが・・・どこの学会にもだせそうにないですね。。。