花冷え

 さて、花冷えよりも冷え冷えとするような、なにかと後ろ暗くほの暗く、そしてまたもの悲しくもみっともない話題の(ごく局地的に)続いた昨今ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。って言ってる端からTVではイギリス人どもが威風堂々に合わせてスクワットをしています。脳天気な奴らだ。

 というわけで、前振りからして今日は結構局地的なメッセージだったりするのですが、そんな場合でも何はともあれひとさまの前でネタを振るからには、ある程度の普遍性は持たせねばなりません。ということで、今日はyoutubeさまから特選、冷え冷えとした気分に合うお勧めのクラシック、ということでまとめてみました。ご存じのようにyoutubeの音質はクラシックを愉しむにはちょっとつらいものですが、アマゾンさんほかの視聴よりは若干ましかもしれない、ということで、参考程度に。


J. S. Bach, Toccata in C minor

 クラシック史上もっともくどいフーガの一つ。どこまで行っても出口はありません。そして長い。ストレスのたまる堂々巡りの考え事をしなければいけないときにはお勧めです。この曲を聴くたびにバッハは神を呪う作曲家なのではないかと思ったりするほど。
 ピアノはアルゲリッチ、意外にもバッハの名手でもあったりします。ちょっと長いので二部で。






J. Brahms, Intermezzo in B minor, op. 119-1

 続いて陰々滅々を体現させれば下はあっても上はない斯界の巨匠ブラームスせんせいから。生涯の片思いのお相手と伝えられるクララ・シューマンの誕生日に贈った小品を。「灰色の真珠、曇ってはいるが、とても大切なもの」とは、受取人のコメントだそう。30年くらい揺らすことなく沈殿させていけば、苦悩は爆発することも鬱屈することもなく、ただただ結晶化していくもののようでございます。
 ピアノはゲンリヒ・ネイガウスリヒテルやギレリス、ヴェデルニコフの師であり、そしてブーニンのおじいさんでもあります。




S. Rachmaninoff, moment musical in B minor, op, 16-3

 ロシアの音楽家は植物のようなもので、ロシアの大地を離れては生きていけないのだ、と語ったというラフマニノフせんせい。しかしまあ、亡命する前でもかれが暗い男であったことは作品を見ればわかります。途中行進曲風になる曲調、と聞けばなにやら明るそうな話ですが、その行進は天国へ向かうことも地獄へ向かうこともありません。堂々巡りすらしません。
 ピアノはホロヴィッツ。この種のほの暗い和音をこれほど見事に弾く人は他にありません。内臓が腐って蒸発していくような絶望的な虚無感を伴った吐息のような和声の処理は、ちょっとこの音質では聞きづらいかもしれませんが。





D. Shostakovich, Prelude and Fugue in E minor, op. 87-4

 暗いロシア人つながりでこの曲。バッハのハ短調のフーガに比べられる出口なしのフーガは、このひとのこの曲をおいて他にはありません。ショスタコーヴィチにしては珍しく、静謐な美しさをたたえたこの曲集の中では、もっとも悲劇的な印象を与える曲でもあります。
 ピアノはリヒテル。仄暗い音色は本当にこの曲にむいています。






G. Faure, Nocturne no. 13, op. 119

 今回のメインイベントともいうべき発見は、フォーレ夜想曲13番。ピアノはペルルミュテール。映像あったのね〜〜〜〜と月に向かって叫びそう。でもVHSの時代に出たっきり、ということのようで、入手はちょっと、困難かもしれません。
 晩年のフォーレの作品は晦渋さを増していったことはよく知られています。かつて吉田秀和の言った言葉を援用すれば、さまざまな色調が混ざっているが故に灰色になった、豊かな灰色、ということになるでしょうか。奇妙なほどに二度の和音をぶつけまくるにもかかわらず不可解なほど静謐で、一瞬の爆発もまたすぐに淡々としたリズムの連なりに回収されてしまうこの曲は、ほんのわずかの揺れによっても現働化が引き起こされる、永遠の潜勢態のすがた、なんじゃないかなあ、と。


 というわけで、今回はピアノでまとめてみました。いくつか入れたかったけれどyoutubeにないものもあったのが、ちょっと残念。音だけあったものに画像を貼り合わせて、という奴は、あんまり好きではないのですが、これはこれで仕方ないとして、なにはともあれペルルミュテール、すばらしいですね。ほかにもソナチネや夜のガスパールもありましたので、お好きな方はどうぞ。

 ではみなさま、まあ、がんばりましょね。


 にしてもブリテン野郎ども、ブリタニアよ決して屈することはないとか歌ってやがるぞ、ほんとうにおめでたい奴らだ。って、BS-2に八つ当たりするのはそのくらいにして。。。